海洋を活かした経済・気候変動対策における波動式湧昇ポンプの可能性
海洋を活かした経済・気候変動対策における波動式湧昇ポンプの可能性
“The potential of artificial wave-powered upwelling pump for economic and climate change measures utilizing the ocean”
1.日本の海洋
日本は陸地面積では世界第61位ですが、海洋面積を含めると世界第6位の広大な面積を持つ海洋国家です。
周辺には深海が多くありその為、日本の海水の堆積で世界第1位です。
この広大な海域と海水は以下の可能性をもちます。
1.1. 海洋エネルギーや鉱物資源の開発の可能性
1.2. 水産資源の利用
1.3. 太平洋側や日本海でのメタンハイドレート、尖閣諸島周辺の石油埋蔵、南鳥島周辺のレアメタルなど資源開発の可能性
1.4. 気候変動対策技術開発での優位性
2.千葉県の沿岸ポテンシャル
千葉県は首都隣接県で最長の約534.4kmの海岸線を有しています。
現状では洋上風力発電を中心とした海洋再生可能エネルギーの導入を進めています。
しかし、これまで以上に地理的特性を活かした沿岸活用法を模索してみる必要があるのではないでしょうか。
その活用カテゴリーとして
2.1. 水産業: 豊かな漁場を活かした持続可能な水産業の発展
2.2. 海洋観光: マリンレジャーや生態系観察などの観光資源としての活用
2.3. 港湾施設: 既存の港湾を活用した海洋産業の拠点化
2.4. 海洋研究: 多様な海洋環境を活かした海洋科学研究の推進
3.東京湾の水温変化が環境に与える影響
東京湾の水温は長期的に上昇傾向にあります。
1967年以降、表層で0.6〜1.3℃の上昇が観測されています。
その影響(または今後生じ得る影響)を以下、列記します。
3.1.ノリ養殖への影響
ノリの生育に適した18°C以下になる時期が、1970・80年代に比べて約10日遅くなっています。
3.2. 底生生物への影響
秋季の水温上昇は、成層の長期化と鉛直混合の遅れにつながり、貧酸素水塊の長期化を引き起こしています。
貧酸素水塊の解消が遅れることで、底生生物の回復時期が遅れる可能性があります。
3.3. 海洋環境の変化
成層構造の変化:秋冬季の密度差が徐々に増加し、近年は鉛直混合の遅れが推察されます。
これにより、栄養塩の循環や溶存酸素の供給に影響を与える可能性があります。
3.4.貧酸素水塊の長期化
十分な鉛直混合が行われないため、貧酸素水塊が晩秋まで継続する傾向にあります。これは底生生態系に深刻な影響を与える可能性があります。
3.5. 水質への影響
水温上昇に伴い、栄養塩類の動態や植物プランクトンの増殖にも変化が生じる可能性があります。透明度の変化や赤潮の発生頻度にも影響を与える可能性があります。
3.6.長期的な影響
水温上昇は、東京湾の生態系全体に広範囲な影響を及ぼす可能性があります。
魚類の分布や回遊パターンの変化、新たな外来種の侵入リスクの増加なども懸念されます。
4.海面水温上昇による世界的影響について
4.1.気候への影響:
4.1.1. 台風の巨大化
海水温が26.5度以上になると台風が発生しやすくなります。
海水温上昇により、より強力な台風が発生する可能性が高まります。
4.1.2. 降水パターンの変化
海水温上昇により水蒸気の発生が増加し、降水量や降水パターンに変化が生じます。
4.1.3. 極端な気象現象の増加
急な豪雨・大雪や猛烈な台風など、極端な気象現象が増加する可能性があります。
4.2.生態系への影響:
4.2.1. 海洋生態系の変化
魚類の分布が変化し、従来の漁場が変わる可能性があります。
プランクトンの減少により、食物連鎖に影響を与える可能性があります。
4.2.2. サンゴ礁の白化:
海水温上昇によりサンゴ礁の白化現象が進行し、生態系に深刻な影響を与えます。
4.2.3. 海面上昇
海面上昇により、低地や島嶼国の国土が減少する危険性があります。
日本でも、海面が1メートル上昇した場合、国土の約9%が影響を受ける可能性があります。
4.3. 沿岸部への影響
砂浜の消失や沿岸部の浸水リスクが高まります。
日本では、30センチメートルの海面上昇で全国の砂浜の半分以上が失われる可能性があります。
*開発実験を行っている千葉県御宿町の海岸面積は年々減少し、岸壁にも海面上昇の影響が顕著となりつつあります。
4.4.経済的影響
4.4.1. 漁業への影響
魚類の分布変化により、漁獲量や漁獲される魚種が変化する可能性があります。
4.4.2. 観光業への影響
海岸線の変化やサンゴ礁の減少により、観光資源が失われる可能性があります。
4.4.3. インフラ整備コストの増加
海面上昇に対応するための防波堤や高潮対策設備の整備が必要となります。
海面水温上昇問題
4.5.その他
4.5.1.沿岸都市の猛暑化
4.5.2.海洋への酸素、CO2の溶け込み阻害による魚介類の酸欠死、藻場の消失
4.5.3.海水の鉛直攪拌阻害による栄養分循環不全
5.台風大型化対策から始まった「波動式湧昇ポンプ」研究開発
2019年の台風15号、19号による日本全体の被害総額は過去最大の約2兆1,500億円にのぼりました。
これを機に海面水温を下げる装置開発に着手しました。
台風制御分野では既に国家プロジェクトとして進行中の「台風ショット計画」(横浜国立大学先端科学高等研究院)があります。
同計画では台風を弱める技術として以下の方法を提案しています。
- ドライアイスを散布する=ドローン使用
- 海面をかき混ぜる
- 氷を散布する
2050年までに成果を出すとしています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sangakukanjournal/18/8/18_4/_pdf/-char/en
出展:横浜国立大学先端科学高等研究院HP
海面水温を下げ台風のエネルギー源となる水蒸気の発生を抑制するとする点では同じです。
しかし、波動式湧昇ポンプの応用範囲は水産資源活性化、沿岸都市部の猛暑対策、海洋へのCO2回収など広範囲です。
6.波動式湧昇ポンプの概要説明
波の運動エネルギーで低層海水を表層付近に汲み上げ、海面に拡散させます。
パイプ管の上部にある逆止弁がブイの上下で開閉を繰り返し低層の水を汲み上げます。
汲み上げられた低層水は風による表層流により広域拡散され海面水温を下げます。
6.1.波動式湧昇ポンプの特徴
6.1.1.短周期のさざ波から長周期のうねりまで広域対応
=湧昇管を斜めにカットし逆止弁板サイズを湧昇管より大きく軽量化
6.1.2.高耐久性=5年間の現場検証での改善効果
=重量蝶番、SUS316(防錆ステンレス)部材、ポリカーボネート2重弁板使用
6.1.3.フジツボ、カキ類の付着防止機能
=パイプ内牽引ロープで使用
6.1.4.安価=今ある海上浮体(ブイ等)を活用可
=逆止弁以外は全てホームセンターで購入できる汎用品使用
6.1.5.漁礁効果
=漁業分野でも海底耕耘に類似した導入価値
*Made in Japan 特許権取得済み *金属部品の一部は柏市内の工場で作成
7.湧昇量計算式、CO2吸収量、東京湾での導入コスト・シミュレーション
7.1.湧昇量計算式
7.2.CO2吸収量、東京湾での導入コスト・シミュレーション
*波高0.5m(振幅1m)、周期3秒、水深3mを想定
*流水・水圧抵抗、ブイの沈み込みロス等は含んでいません。
8.国内・海外事例
8.1.
「自然エネルギーを利用した湧昇流発生による養殖マガキの身入り向上に関する研究」
研究の目的
- 自然エネルギーを利用した湧昇流発生装置の開発:
• 波力を利用した波動式湧昇ポンプを開発し、養殖海域での栄養塩供給を目指す。 - 養殖マガキの身入り向上:
• 湧昇流による栄養塩供給が、マガキの成長と品質向上に与える影響を検証する。 - 持続可能な養殖技術の確立:
• 外部エネルギーに依存しない、環境に優しい養殖支援システムの構築。
この研究は、自然エネルギーを活用した持続可能な養殖技術の開発を目指しており、マガキの品質向上だけでなく、海洋環境の改善や気候変動対策にも寄与する可能性を示しています。波動式湧昇ポンプの実用化により、環境に配慮した効率的な養殖業の実現が期待されます。
宮城県水産試験場:熊谷 明・押野 明夫
8.2.
「深層水汲み上げによる海洋肥沃化実験」
実験の目的
- 海洋生産性の向上:
• 深層水の栄養塩を利用して植物プランクトンの生産量を増加させる。
• 食物連鎖を通じて動物プランクトンや魚類の生産量増大を図る。 - 自然循環型の生物生産技術の確立:
• 自然海洋の仕組みを利用した、持続可能な海洋資源増大手法の開発。 - 深層水利用の可能性検証:
• 深層水の富栄養性を活用した海域肥沃化の実現可能性を検証する。
深層水汲み上げによる海洋肥沃化は潜在的な可能性を持つものの、実用化にはさらなる技術開発と研究が必要であることが示されました。
-拓海プロジェクト- 大内 一之 工博 ㈱大内海洋コンサルタント
8.3.
「波浪ポンプ技術を用いたアップウェリング制御の外洋実験」
推測される実験の目的 - 波力を利用した湧昇流発生装置の外洋での性能検証:
• 波浪ポンプ技術を用いて、外洋環境下での湧昇流(アップウェリング)制御の実現可能性を検証する。 - 深層水汲み上げ効果の検証:
• 低層水の汲み上げ量や栄養塩供給効果を実海域で測定する。 - 環境への影響評価:
• 湧昇流発生が周辺海域の生態系や水質に与える影響を調査する。
予想される実験結果 - 装置の性能:
• 波の周期と大きさに応じて、1日あたり100〜300m³の低層水を汲み上げることが可能。 - 栄養塩供給効果:
• 深層水の汲み上げにより、表層の栄養塩濃度が増加する可能性がある。 - プランクトン増殖:
• 栄養塩供給により、植物プランクトンの増殖が促進される可能性がある。 - 環境への影響:
• 局所的な水温低下や溶存酸素量の変化が観測される可能性がある。 - 技術的課題:
• 外洋環境下での装置の耐久性や安定性に関する課題が明らかになる可能性がある。
結果:
ハワイ沖で波動式湧昇ポンプの実証実験を実施。
冷水の汲み上げとプランクトンの増加を確認したが外洋での強度設計不足により、約1週間で装置が破損。
オレゴン州立大学オレゴン州コーバリスの海洋大気科学部
ハワイ大学マノア校、ホノルル、ハワイの海洋地球科学技術学部
9.海面水温冷却によるハリケーン制御技術開発を行う海外企業・団体
- Blue Planet Energy Solutions
海洋温度管理技術を利用して、海洋表面温度を低下させることでハリケーンの発達を抑制する技術を開発しています。この技術は、巨大なポンプを使用して冷たい深層水を表層に汲み上げるものです。 - Atmocean
海洋ポンプシステムは、波のエネルギーを利用して冷たい深層水を表層に汲み上げ、海洋温度を下げることでハリケーンの発達を抑制することを目指しています。また、これによりプランクトンの生育を促進し、海洋生態系の健康を改善する効果も期待されています。 - Evertech Energy and Resources
深層水汲み上げシステムを開発しており、これにより海洋表面温度を下げてハリケーンの発達を抑制することを目指しています。特に、ハリケーンが発生しやすい海域での実用化を目指しています。 - Ocean-Based Climate Solutions, Inc.
深層水を汲み上げて海洋表面温度を下げる技術の開発に取り組んでいます。この技術は、ハリケーンのエネルギー源である暖かい海水を冷やすことで、ハリケーンの発達を抑制することを目指しています。
これらの企業やプロジェクトは、低層の冷たい海水を汲み上げる技術を利用して、ハリケーンの発達を抑制するための研究と開発を行っています。
実用化には多くの課題がありますが、この技術が成功すれば、ハリケーンによる被害を軽減するための革新的な手段となる可能性があります。
10.波動式湧昇ポンプの構造、特徴、効果、開発状況まとめ
10.1.構造と原理
- 基本構造:
- 水面に浮かぶブイ(浮体)
- ブイの下に吊るされた逆止弁付きパイプ
- 動作原理:
- ブイ上昇時:弁が閉じてパイプ管内の水を引き上げる
- ブイ下降時:逆止弁が開き内部の水を表層に拡散する
- 波の上下運動を利用して低層の水を汲み上げる
10.2.特徴と利点 - ゼロエネルギー:
- 波力を利用するため、外部エネルギー源が不要
- 2次汚染の発生を防止
- 多目的利用:
- 海面水温冷却による台風/豪雨制御
- 低層の酸欠状況改善
- 海洋プランクトンと魚介類の増加によるCO2削減効果
- 汎用性と標準化:
- 導水管(VU100とVU200連結管)を使用し、部品の汎用性を確保
- 漁業関係者が自ら製造、使用、販売可能
- 環境への配慮:
- 生態系(海藻、貝等)の過剰付着防止機能の開発
- 適応性:
- 設置海域の特性に応じてサイズ調整が可能
- ノリ、アサリ、カキなど、養殖対象と海域に合わせた改良が可能
10.3.期待される効果
- 海面水温の冷却による台風大型化の抑制
- 海洋プランクトンの増加と水産資源の活性化
- 低層養分の再拡散による海洋肥沃化
- CO2回収量の増加
- 漁業の持続可能性向上
10.4.開発状況
- 現在、生態系付着防止機能やスライド式湧昇管の改良を進行中
- 多様な海域での機能と効果確認が次のステップ
- 漁業関係者自身による製造・使用を目指す
波動式湧昇ポンプは海洋環境改善と気候変動対策への革新的技術あると考えられます。
11.モニター販売について
12.開発協力団体
芝浦工業大学 工学部 機械学群 機械機能工学科、田中耕太郎研究室:共同研究
御宿町岩和田漁業協同組合および御宿町役場:実験水域使用おける許認可支援
国土交通省 国土技術政策総合研究所:東京湾シンポジウム出展許可
みなと総合研究財団:専門的アドバイス
NPOエスコット会員(佐野市役所):研究資金支援
開発まで5年間ご支援頂いた皆様には改めてお礼申し上げます。
NPO法人エスコット 環境機器開発部会
〒277-0011 千葉県柏市東上町4-17
千葉県夷隅郡御宿町上布施768-22
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