波動式湧昇ポンプの基本構成と仕組み

― 波の力で低層の海水を上層へ運ぶ省エネルギー技術 ―


エスコット(ESCOT)が開発を進めている波動式湧昇ポンプは、波の上下運動を利用して低層の海水を上層へ運ぶ省エネルギー型の装置です。
電力や燃料に大きく依存せず、海の自然エネルギーを活用して、表層水温の緩和、養殖環境の改善、海水交換の促進などへの応用が期待されています。

近年、陸奥湾をはじめ各地の養殖現場では、高水温によるホタテ等への影響が大きな課題となっています。
そこでエスコットでは、比較的浅い低層水を表層付近へ継続的に供給することで、局所的な冷却や環境改善に役立てられないかという視点から、本装置の改良と検証を進めています。


波動式湧昇ポンプとは

波動式湧昇ポンプは、海面の波によって生じる上下運動を利用し、海中の低層水を管内に取り込み、上方へ運ぶ仕組みを持つ装置です。

基本構成は次の通りです。

  • 受風ポール
  • 丸ブイ
  • 逆止弁
  • 上部湧昇管
  • 下部湧昇管
  • 係留ロープ
  • クリーニング・ロープ

波によってブイが上下すると、湧昇管内部の水との間に相対運動が生じます。
このとき逆止弁が流れを一方向化することで、低層の海水が上方へ送られます。


イラスト

図1 波動式湧昇ポンプの基本構成
波の上下運動を利用して、低層の海水を上方へ運ぶ仕組みを示した概念図。


この装置に関係する主な物理原理

波動式湧昇ポンプの動きは、特別に難しい理論だけで成り立っているわけではなく、いくつかの基本的な物理原理の組み合わせで説明できます。

1.浮力

丸ブイは海水から浮力を受け、波に合わせて上下運動します。
この浮体運動が、装置全体の駆動力になります。

2.水の慣性

管が上下しても、管内の水はすぐには同じように動かず、その場にとどまろうとします。
この慣性により、管と水の間に相対運動が生じます。

3.逆止弁による一方向化

波による上下運動は本来往復運動ですが、逆止弁がこれを上向きの流れに整流します。
これにより、低層水を連続的に上方へ送りやすくなります。

4.波浪エネルギーの利用

水を上に持ち上げるには仕事が必要ですが、そのエネルギー源はです。
言い換えれば、この装置は波浪エネルギーを利用した逆止弁式の揚水装置と考えることができます。

最も適切な名称

波浪エネルギーを利用した容積式ポンプ作用(positive displacement pumping)

波によって浮体と管が上下運動し、管内の水を押し上げ、逆止弁によって水流を一方向に整流する仕組みです。

関係する物理法則・原理は次のとおりです。

  1. アルキメデスの原理(浮力)
    浮体が海水から浮力を受け、波に追従して上下運動します。これがポンプの駆動力になります。
  2. 静水圧の法則
    水深が深いほど圧力が高く、圧力差は ΔP=ρgΔh\Delta P=\rho g\Delta hΔP=ρgΔh で表されます。深層水を海面まで上げるには、この水頭差に相当する仕事が必要です。
  3. ニュートンの運動法則・流体の慣性
    管が上下しても、管内の水は慣性によって同時には動きません。この相対運動によって、弁の開閉と水の吸入・吐出が生じます。
  4. 逆止弁による流れの整流作用
    上下に往復する波の運動を、上向きだけの水流に変換します。これは物理法則というより、機械的整流機構です。
  5. ベルヌーイの定理・連続の式
    管内の流速、圧力、断面積の関係を評価するときに使います。ただし、ポンプが水を持ち上げる根本原理を「ベルヌーイ効果」と呼ぶのは正確ではありません。

したがって、学会や説明資料では、次の表現が最も誤解が少ないでしょう。

波浪による浮体の上下運動と流体慣性を利用し、逆止弁によって往復運動を一方向の上昇流に変換する容積式ポンプ作用

短く呼ぶなら、

波動駆動型・逆止弁式容積ポンプ原理

が適切です。サイフォン現象とは異なり、海面より上に連続的に吐出する場合には、波の仕事によって重力水頭を克服しています。


下部に太い管を使う狙い

現在エスコットでは、下部湧昇管を上部湧昇管より太くする構成について検討を進めています。

この狙いは、単純に「太い管の方が速く流れる」ということではありません。
むしろ、同じ流量であれば、太い管の方が内部の流速は下がります。

それでも下部を太くすることに意味があるのは、次のような理由からです。

1.一回の運動で関与する水量を増やせる可能性

下部管の断面積が大きくなることで、1回の波の運動あたりに取り込める水量が増える可能性があります。

2.吸込口付近の流速を下げられる可能性

吸込口が広くなれば、同じ流量でも入口流速を抑えられるため、

  • 入口抵抗の低減
  • 渦の抑制
  • 砂泥の巻き上げ低減
  • 小魚や海藻などの吸込みリスク低減

が期待できます。

3.上部細管との組合せで吐出側の流れを整えやすい

下部で取水量を確保しつつ、上部で流れをまとめるという考え方です。


ただし注意点もある ― 異径継手部の損失

下部を太くした場合でも、必ず性能が上がるとは限りません。
太い下部管から細い上部管へ移る部分では、異径継手部で乱れや損失が発生する可能性があります。

具体的には、

  • 流れの剥離
  • 渦の発生
  • 局部的な圧力損失
  • 逆止弁周辺での損失増大

などが起こり得ます。

したがって重要なのは、

下部太径化による取水量の増加が、継手部や逆止弁による損失を上回るかどうか

です。

この点は、今後の比較実験で丁寧に確認していく予定です。


ホタテ高水温対策との関係

この技術が注目される理由の一つは、高水温に悩む養殖現場への応用可能性です。

近年、ホタテ養殖の現場では、表層近くの水温上昇が大きな課題となっています。
波動式湧昇ポンプは、比較的浅い低層の海水を上方へ運ぶことにより、表層付近の水温や水環境を緩和できる可能性があります。

もちろん、海域条件、波浪条件、設置深度、養殖施設の配置などを踏まえた検討が必要ですが、

  • 表層の過度な高温化の緩和
  • 水の鉛直混合促進
  • 局所的な海水交換の補助

といった効果が期待されます。


今後の検証課題

エスコットでは、今後、同一条件下で次のような比較検証を行う予定です。

  • 同径管構成
  • 下部太径+上部細径構成
  • 継手部をよりなだらかにした構成

比較したい主な項目は以下の通りです。

  • 1回あたりの揚水量
  • 単位時間あたりの揚水量
  • 吐出口での流速
  • 水の拡散のしやすさ
  • 波高・周期との関係
  • 装置全体の安定性
  • 異物吸込みや清掃性

このような実証を通じて、養殖現場で使いやすく、構造的にも無理のない最適仕様を探っていきます。


波の力を、現場の課題解決へ

波動式湧昇ポンプは、波という自然エネルギーを活用して低層水を上方へ運ぶシンプルで応用性の高い仕組みです。
その基本原理は、浮力、水の慣性、逆止弁による整流、そして波浪エネルギーの利用にあります。

また、下部太径管の採用は、取水量や吸込み条件の改善につながる可能性がある一方で、継手部の損失とのバランスを見極める必要があります。
今後の比較実験を通じて、より実用的な構成を明らかにしていく予定です。

エスコットでは今後も、海面水温上昇への適応、養殖環境の改善、海洋環境技術の実装に向けて、この技術の検討と発信を続けていきます。


波動式湧昇ポンプに関するご意見、ご質問、実証協力のご相談がありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。


追記事項

1.要約

波の力で低層水を上へ運び、海面近くの高水温緩和に役立てようとする技術です。

2.想定用途

  • ホタテ等の養殖環境改善
  • 表層高水温の緩和
  • 海水交換の補助
  • 省エネルギー型の海洋環境改善技術

3.最後に視察・説明会情報

本技術は、2026年8月6日に青森県平内町関係者への説明会を千葉県御宿町岩和田漁業協同組合様の会議室をお借りして行う予定です。

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